2021 年 26 巻 7 号 p. 7_75-7_77
人々がさまざまなハザードをどのように受けとめ、反応するのか、この問題を明らかにしようとするのがリスク認知と呼ばれる研究領域である。本稿では、リスク認知研究の基盤となる二重過程理論を紹介し、毒性学のリスク評価や量―反応関係に基づく基準値設定が一般の人々にどのように受けとめられるのかを検討する。特に、毒性学の定量的、確率論的なスタンスと人々のリスク認知の特徴との親和性について議論する。二重過程理論によると私たちの判断・意思決定は、低負荷で高速で大雑把なシステム1と、負荷が高く処理時間も要するが精緻な解を求めるシステム2という二つの思考システムに支えられている。そして、日常の判断はシステム1主導で行われがちである。このため、人びとは定量的な判断が可能でありながら、定性的な判断に傾きがちとなる。このような性質をもつリスク認知とリスク評価との齟齬にどう対応し、コミュニケーションすべきかを考える。