学術の動向
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26 巻, 7 号
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特集
理数系教育とジェンダー ─学校教育にできること─
  • 遠藤 薫
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_9
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー
  • ──学校教育への注目
    河野 銀子
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_10-7_16
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     科学技術・学術分野の男女共同参画を推進するため、大学等の女性研究者支援を軸とする政策が開始されて15年近くになるが、これまでの政策において、学校教育のあり方や役割が注目されることはあまりなかった。しかし、依然として大学進学にジェンダー差がある状況等を勘案すると、初中等教育段階の教育に注目する必要がある。こうした認識に立ち、日本学術会議社会学委員会ジェンダー研究分科会は、公開シンポジウム「理数系教育とジェンダー:学校教育にできること」を開催した。本特集はシンポジウムを踏まえ、科学技術分野のジェンダー平等を実現するために学校教育にできることを、理数系教育に着目して多角的に議論する。本稿は、議論に先駆けて、日本の科学技術・学術分野の男女共同参画政策を女子の理系進路選択の実態とともに振り返り、学校教育での取組みが十分でないことを指摘し、今後の展望を述べる。

  • ――隠れたカリキュラムの視点
    天童 睦子
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_17-7_21
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     知識伝達に潜むジェンダー統制は、メリトクラシーを前提とする学校教育では表立っては見えにくいが、ジェンダー化された役割期待、身体的な規制と許容、進路選択にみる「自発的」従属などの形で具現化されている。本稿では、教育社会学とフェミニズムの視点から、「隠れたカリキュラム」とジェンダー・コードを紹介し、ジェンダー化された知識伝達と見えない教育統制を理解する枠組みを提示する。そして知識伝達におけるジェンダー不平等の再生産を乗り越えるために、学校教育にできること、教師の役割を検討する。

  • ──研究と実践の進歩から学ぶ
    瀬沼 花子
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_22-7_29
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     本稿は「数学とジェンダー」に関して、この20-30年間の変化を含め最新の動向や展望を次の三つについて述べるものである。①数学教育の研究や国際的な学力調査に見る算数・数学の男女差の動向、②算数・数学教科書の動向、③意識にないものを意識化させる手法の具体化。

     その主な内容は次の通りである。①数学教育におけるジェンダーの問題は、国や文化、階層や人種などの「公平(equity)」の中で議論されるようになってきている。数学得点の男女差は小中でなくなっているが、数学に対する態度には男女差がある。日本の中学校数学の女性の先生は少ないままである。②算数・数学教科書は「主体的・対話的で深い学び」の文脈に変わっており、イラストの男女の割合や役割が改善され、数学を使う仕事に関わるエッセイに女性が登場している教科書もある。③内閣府男女共同参画局による「指導者用啓発資料」(2021.3)は、今後の改善を促す第一歩と期待できる。

  • 稲田 結美
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_30-7_35
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     初等・中等教育段階の理科教育が、女性の理工系人材の育成や女子の理工系への進路選択の抑制要因の一つになっている。理科学力については、男女間に明瞭な差は見られないものの、理科学習に対する意識や態度については、中学校段階から女子の方が男子よりも消極的あるいは否定的になり、理科離れが顕著に表れる。このような状況の原因となる理科や自然科学研究に対するジェンダー・ステレオタイプは、理科教育にも潜在的カリキュラムとして浸透し、気づかぬうちに女子の理科離れを永続させてしまう。理科学習への女子の意識と態度を改善し、理工系への進路選択を促進するためには、学校外からの支援だけでなく、学校の理科教育そのものの変革が必要であろう。その変革とは、ジェンダーに関わる潜在的カリキュラムの発見と是正を中心とした研究の蓄積、理科授業への実践的な介入研究、ジェンダーの観点からの教師教育・教員養成、理科におけるキャリア教育の推進などが考えられる。

  • ──「一気にわかるスイッチ」を探せ
    前川 哲也
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_36-7_37
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     女子中学生に理科の物理単元を指導していると、①「物理」と聞いただけで、わからない、もうだめだ、と全力で頭のシャッターを閉じてしまう反応②美しすぎるノートをつくる③見落としている点を指摘すると、学習内容がほとんど理解できなかった状況が劇的に改善される「一気にわかるスイッチ」がある、という「女子中学生の物理あるある」が見られる。「一気にわかるスイッチ」となる生徒の見落としは、内容を理解している教師側にとってはとるに足らないことで、わざわざ説明しないことが多いため、時間をかけて生徒と向き合わないと何を見落としているのかが見つけにくい。そのため、「一気にわかるスイッチ」のありかを教師間で共有化することが望まれる。

  • ──ネットワークの構築と継続
    栗山 恭直
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_38-7_42
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     山形大学の理系女子進路選択支援事業の概略を説明する。事業のポイントは長年、県内での科学普及活動を継続してきたことにより県内の各機関とネットワークを構築することができたことである。例えば、県教育委員会(高校教育課・義務教育課)、県産業労働部工業戦略技術振興課、県しあわせ子育て応援部女性・若者活躍推進課、山形県男女共同参画センター、県立図書館等々と連携している。中学校には、エフエム山形の大学提供の番組「Be☆ラボ山大サイエンスカー」で女性研究者の訪問実験と研究者と女子生徒の座談会、高校へは課題探究活動の女性大学院生による指導が取り組みの特徴である。2020年度から山形大学では、県と山形新聞とSDGs宣言を行い、県民への普及活動を取り組んでいる。その中でもジェンダー平等など達成すべき目標として今後も大学を挙げて取り組んでいけるように進めていきたい。

  • 伊藤 貴之
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_43-7_45
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     情報科学・情報工学は理工系の中でもさらに女性人員比の低い学術分野である。IT技術が日常生活や日常業務に浸透する中で、情報科学・情報工学が人材多様性を確保できないのは問題であるという意識が高まっており、特に女性人材確保のための議論が各所で進んでいる。著者もこの問題に関する個人での調査結果を何度か報告している。本稿ではその調査内容の概要を紹介するとともに、その後の追加ヒアリングを通して感じた点を論じたい。

  • 山西 陽子
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_46-7_47
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     本稿では、女性エンジニアや大学における女性研究者や機械系女子学生などの現状や取り巻く環境について述べる。女性は結婚・出産などのライフイベントが多く、女性の数だけ様々なキャリアパスが存在する。それと同時に、その選択肢の多さに戸惑う女子学生も少なくない。このように理工学系分野の女性研究者を取り巻く環境は複雑で四角四面には解決できない問題が数多くあるが、少しずつ解決の糸口を探っていきたい。

  • ──ジェンダーバランス事例
    宮崎 恵子, 武仲 能子
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_48-7_50
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     筆者らは、理系の研究者で、理数系を学んだ卒業生を迎える側である国立研究開発法人(以下、国研という)に所属している。理数系女子の就職先の一つである国研でも、ダイバーシティ対策が着々と推進されていることを知っていただき、女子たちが無用の不安を感じることなく理数系を選択できるようになることを願い、国研のジェンダーバランス並びにダイバーシティ推進事例について紹介している。また、筆者らが学校教育からどのように影響を受け、その後の理系進学につながったのかを、実際の筆者らの経験をふまえて紹介している。

  • ──誰を励まし, 誰を諦めさせているか
    井谷 惠子
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_51-7_55
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     体育科教育は、身体が焦点化される教育実践ゆえにジェンダーの政治に組み込まれてきた歴史を持つ。男女で異なる単位数や内容が解消されたのは1989年の学習指導要領改訂であり、その後も実践レベルでは男女で異なるカリキュラムが残っている。近年では、スポーツの産業化やスポーツイベントを介した経済政策などが、教育にも少なからず影響を及ぼしている。学校体育では、疑われることなく競技スポーツが主流化されているが、競技スポーツは、男性優位を際立たせ、女性を周縁化する作用を持つ。女性アスリートの活躍とは裏腹に、指導的立場にある女性割合は低く、教育の場における女性のロールモデルも十分ではない。学校期では女性のスポーツ離れが進み、生涯にわたる運動・スポーツ実践においても大半の女性たちが競技スポーツを自分のいる場所とは見ていないにもかかわらず、競技スポーツの主流化が進み、財源も圧倒的に競技スポーツに割り振られている。

  • ──歴史的視点から
    小浜 正子
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_56-7_57
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     学校というシステムは、近代社会の初期に「ひと」をジェンダー化して期待される男性像・女性像へと育てる装置として作られた。現在の学校は、全ての生徒がジェンダーやセクシャリティにかかわらず伸びやかに生きることを支援する場とならなくてはならない。

特集
毒性学のこれから ─外から見た毒性学─
  • 渡辺 知保
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_59
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー
  • 橋爪 真弘
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_60-7_63
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、温暖化について「疑いの余地がない」とし、有効な対策をとらなかった場合の様々な分野の影響予測を報告書にて評価している。健康への影響としては、暑さによる直接的影響(熱中症や熱ストレスによる死亡等)の他に病原体を媒介する蚊やマダニなどの生息域拡大による媒介動物由来の感染症(マラリア、デング熱など)流行域の拡大、水および食物由来の感染症(下痢症など)の増加、食料や生活用水の不足による栄養性疾患の増加、光化学オキシダント濃度の上昇による呼吸器疾患の増加、自然災害後のメンタルヘルスに関する問題、海洋の温暖化や永久凍土の融解に伴う水銀サイクルの変化、洪水や干ばつに伴う化学物質の拡散など様々な影響が予測されている。将来の健康影響予測の多くは、複数の社会経済発展シナリオをもとに作られた気候シナリオに基づくものである点で、私たちの社会がどう対応するかによって変わりうる選択肢を提示する「予測」である。

  • 早水 輝好
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_64-7_66
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     環境行政、特に化学物質対策や水・大気等の環境汚染対策においては、リスク評価の際に、毒性や生態毒性に関する知見が重要な役割を果たす。PM2.5のように広く存在する汚染物質について環境基準を設定するような場合は、疫学知見が重視されるが、それが単なる相関関係なのか因果関係なのかについて判断する際には、毒性学知見に基づく影響メカニズムの検証が必要になる。他方、有害物質について水質の環境基準を決める際には、毒性試験や生態毒性試験の結果に基づく有害性評価により評価値(TDI(耐容一日摂取量)、PNEC(予測無影響濃度)など)が算出され、環境モニタリング等による曝露評価の結果と比較して、必要があると判断されれば基準値が設定され、対策が検討されることになる。環境行政の中では毒性学知見(生態毒性を含む)は政策判断の際の一つのピースにすぎないが、重要度は非常に高く、地味な「黒子」ではあるが大切な役割を果たし続けて欲しい。

  • 北野 大
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_68-7_71
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     本稿では化学物質審査規制法での下記の試験について言及する。

     (分解性)好気的条件下での生分解性が審査されるが、化学物質が環境に放出された後は、嫌気的条件下や、また物質によっては水圏よりも気圏に多く分布する場合もあり、嫌気的生分解試験法および光分解試験法の開発が必要である。

     (濃縮性)魚類への直接濃縮性を評価しているが、きわめて難水溶性の物質に対しては餌料投与法が開発された。この試験法は未解決の問題点が多く、規制に用いる公的な試験法としては時期尚早と考える。このほか自然界の条件を反映した新たな試験法の開発が必要である。

     (生態毒性)現行の試験法はきわめて単純化した系であり、エンドポイントはいずれも外見への影響である。これらの試験で、外見に現れない影響さらには生態系そのものへの影響が評価できるのであろうか。また水に難溶性の物質は生態毒性なしと判断してよいのであろうか。今後の検討が必要である。

  • 村上 千里
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_72-7_74
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     本稿は、日本学術会議公開シンポジウム「毒性学研究のこれから~「外」から見た毒性学~」において、消費者の立場から「毒性学」への要望を述べるにあたり、意見形成のために行った、消費者団体メンバーによる調査・学習活動のプロセスと結果について紹介している。そしてその結果をふまえ、「解明されていないことの周知」「消費財の安全情報に関する消費者向けワンストップサイトの開設」「消費者が毒性情報に向き合う際の基本スタンスの提示」という3点の必要性を述べている。

  • 中谷内 一也
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_75-7_77
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     人々がさまざまなハザードをどのように受けとめ、反応するのか、この問題を明らかにしようとするのがリスク認知と呼ばれる研究領域である。本稿では、リスク認知研究の基盤となる二重過程理論を紹介し、毒性学のリスク評価や量―反応関係に基づく基準値設定が一般の人々にどのように受けとめられるのかを検討する。特に、毒性学の定量的、確率論的なスタンスと人々のリスク認知の特徴との親和性について議論する。二重過程理論によると私たちの判断・意思決定は、低負荷で高速で大雑把なシステム1と、負荷が高く処理時間も要するが精緻な解を求めるシステム2という二つの思考システムに支えられている。そして、日常の判断はシステム1主導で行われがちである。このため、人びとは定量的な判断が可能でありながら、定性的な判断に傾きがちとなる。このような性質をもつリスク認知とリスク評価との齟齬にどう対応し、コミュニケーションすべきかを考える。

  • 那須 民江
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_78-7_79
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     毒性学は予防医学・予防医療の一分野である。有害化学物質を対象とする側面が強いが、新型コロナウイルスのような生物的要因も含まれる。この分野で大きな力を発揮する科学はレギュラトリーサイエンス(リスク評価・リスク管理・リスクコミュニケーション)である。毒性学の内の者、即ち研究者はリスク評価に耐えうる実験計画を行い、研究情報を公表する必要がある。一方、毒性学の外の者、即ち市民はレギュラトリーサイエンスの情報を読み解く力、リテラシー、を身につける必要がある。われわれは「ゼロリスク」を求めがちであるが、その概念からも、またリスク評価の方法論からもリスクはゼロとはなりえない。毒性学の「内」と「外」を結ぶ線はリスクコミュニケーションである。合意形成できることが求められるが、科学的情報のみでは必ずしも解決できない。経済的、社会的などの多方面からの解決が必要である。

  • 青木 康展, 石塚 真由美, 渡辺 知保
    2021 年 26 巻 7 号 p. 7_80-7_82
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/11/26
    ジャーナル フリー

     毒性学は、その研究対象を多種多様な化学物質としており、その多くがヒトの生産活動により生み出されている。従って、社会の構造や活動、環境の変化により、毒性学の社会的ニーズや対象も絶えず変化を続けている。そこで、毒性学の現在と未来を考えるために「外から見た毒性学」について、多様な分野や立場、専門性を持つ講師によるシンポジウムを開催した。本特集では、化学物質の規制や市民と毒性学専門家の関係性を中心に、「リスク評価」、「リスク管理」、「リスクコミュニケーション」など、毒性学に社会が求めていることについて論ずる。地球環境の変化や社会の変革が現在進行形で起こっている中、毒性学が今後どのように変化・変貌していくのか、社会的ニーズに答えるためには何を考えなければいけないのかについて議論する。

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