2022 年 27 巻 6 号 p. 6_22-6_25
現在、人の生涯に亘る心身の健康や経済的安定性等も含めた社会的適応性の実現において、乳幼児期に「非認知能力」なるものの土台を形成しておくことの重要性が声高に叫ばれている。「非認知能力」は、社会情動的スキルあるいは自己と社会性に関わる心的性質と換言し得るものであるが、これまでの発達心理学的知見によれば、その発達促進には、子どもが正負、様々な感情の当事者である、まさにそのタイミングでの諸経験および周囲の大人からの関わりが枢要な意味をなすものと言える。実は、こうした関わりは、体系化された特別な働きかけとしての狭義の「教育」ではなく、むしろ子どもの心身の健康や安全を維持し、情緒の安定を図る「養護」の営みの中で、半ば当然のごとく実践されてきたものと考えられる。この小論では、これからの保育や幼児教育が、養護と教育を表裏一体と見なし、質の高い養護を通して、社会情動に関わる教育を推し進めて行く必要性を訴えるものとする。