学術の動向
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27 巻, 6 号
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特集
子ども政策の総合化について考える
第一部 子ども政策の総合化をめぐる問題状況
  • 秋田 喜代美
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_10-6_13
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     少子化が進む社会の中で、国の政策として子ども子育て政策に重点が置かれてきている。その中でも、現在、現世代投資としての子育て政策に力点が置かれがちであるが、子どもに関わる政策が未来投資として重要である。こども家庭庁は設置の目的においても、子どもの権利や最善の利益を掲げており、期待は大きい。ただし、今後さらに解決すべき点として、子どもの権利に関する法律等の制定が必要であること、また公教育と児童福祉の関連や所管の在り方の検討が行政の機能と関連付けて必要であること、また子どもに関わるデータの収集や学術分析によるエビデンスに基づいて、政策が提言されていくための体制が作られていくことが必要であること、の三点が挙げられる。

  • 一場 順子
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_14-6_17
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     子どもの権利条約を日本が批准してから28年となる今年の春、国会にこども家庭庁設置法案とあわせてこども基本法案が提出された。

     子どもに関する施策や制度設定の指針となるのは、子どもを権利の主体として尊重する子どもの権利条約の理念である。条約の一般原則は子ども施策をすすめるために法律に明記されることが必要である。

     日本弁護士連合会は、条約の一般原則を子どもの権利として規定し、子どもの権利を守る制度としての子どもの権利擁護委員会の制度を設置する法律案を提言した。

     東京都こども基本条例は子どもを権利の主体として認め、子どもの権利条約の一般原則を明記した。すでに現在44の地方公共団体で子ども条例を制定し、条例に基づいて子どもの相談救済機関を設置し、又は設置が決められている。

     子どもの相談救済機関は、子どもの相談を受け、調査し解決するほか提言もできる公正・中立で独立性と専門性のある第三者機関であり、子どもの権利を保障するための制度として国にも必要である。

  • 荘保 共子, 岡部 美香
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_18-6_21
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     本稿は、2021年10月31日開催の日本学術会議・公開シンポジウム「子ども政策の総合化について考える」における荘保共子氏のご講演とそれに対する岡部のコメントをまとめたものである。国や地方自治体が子ども政策の総合化に本格的に取り組もうとしているいま、子ども政策の総合化を推進するにあたって留意するべきポイントが三つ挙げられる。まず、「官」の制度による保障と「民」の機動性の発揮をともに活かすことのできる官民協働の体制を構築すること、次に、アウトリーチ活動の推進によって課題を発見し可視化すること、そして、課題解決の過程ではつねに当事者(子どもとその家族)の参加と当事者中心という原則を貫くことである。最後に、残されている課題として、福祉政策の基盤となっている市町村の行政区をこえて生活するようになる高校生以上の子どもや若者に対する支援がいまだ不十分であることが指摘される。

第二部 政策実現のための横の連携・縦の接続
  • ──養護と教育の表裏一体性
    遠藤 利彦
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_22-6_25
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     現在、人の生涯に亘る心身の健康や経済的安定性等も含めた社会的適応性の実現において、乳幼児期に「非認知能力」なるものの土台を形成しておくことの重要性が声高に叫ばれている。「非認知能力」は、社会情動的スキルあるいは自己と社会性に関わる心的性質と換言し得るものであるが、これまでの発達心理学的知見によれば、その発達促進には、子どもが正負、様々な感情の当事者である、まさにそのタイミングでの諸経験および周囲の大人からの関わりが枢要な意味をなすものと言える。実は、こうした関わりは、体系化された特別な働きかけとしての狭義の「教育」ではなく、むしろ子どもの心身の健康や安全を維持し、情緒の安定を図る「養護」の営みの中で、半ば当然のごとく実践されてきたものと考えられる。この小論では、これからの保育や幼児教育が、養護と教育を表裏一体と見なし、質の高い養護を通して、社会情動に関わる教育を推し進めて行く必要性を訴えるものとする。

  • ──教育と学びの観点から
    浅井 幸子
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_26-6_29
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     現在進められている子ども政策の総合化は、福祉的な観点が焦点化されており、教育と学びの観点は後景化している。本稿では、グローバルなECEC(early childhood education and care)政策の動向を参照しつつ、教育と学びの観点の重要性を述べている。その際に、重要なのは、ECECに二つの考え方があるという事実である。一つは、将来の労働者たるべき子どもを就学と学びへと準備するものとしてのECECであり、もう一つは、今既に市民である存在の子どもに大人や仲間との交流の機会と市民であることを学ぶ機会を与えるものとしてのECECである。後者は子どもの権利を基盤としつつ醸成されてきた権利ベースの子どものイメージを基盤としている。総合的な子ども政策を構築するにあたっても、子どもをその未熟さやヴァルネラビリティにおいてのみ定義するのではなく、大人とともに世界の意味と文化を構築する存在、今、ここの市民として位置づける視点が必要である。

  • 筒井 美紀
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_30-6_32
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     今日の高卒就労支援に必要な専門性は、職業指導・職業紹介/就労支援/企業支援の専門性である。これらは教員の本来的業務範囲をとっくに超えている。政府は、無理の来た学校経由の就職制度(職業安定法27条などに規定)への対処を試みてきた。「高等学校就職支援教員」配置の財政措置や、スクールソーシャルワーカー(SSW)らの法令明記(学校教育法施行規則改正)である。だが、かかる専門職の学校配置には課題がある。第一、就労支援者やSSWを非常勤職員として雇用する当の監督者が(cf. 学校教育法37条)、上記の専門性にしばしば不案内で、適切な業務分担を困難にしている。第二、高卒就労支援では、職業安定は厚生労働省、高校は都道府県、福祉は区市町村と行政機関がスケール的に分立し、区市町村・小中学校を範にとった「チーム学校」的対応は必ずしも充分に機能しない。他方、上記諸課題の克服を目指す広域自治体事業が進行中で、注目に値する。

第三部 行政と現場をつなぐ
  • ──教育行政の課題
    勝野 正章
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_33-6_35
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     近年、子ども参加による校則の見直しが教育行政主導により各地で進んでいる。この動向が、学校教育行政の子どもの権利保障に対する、より広範かつ積極的な姿勢、施策への変化につながることが期待される。子どもの教育の権利は、学習を通して将来における権利行使の準備をするだけでなく、子ども期において自己の権利を行使し、他者の権利を尊重する主体であることのできる権利であり、学校において十全に保障されなくてはならない。教育行政は、民間・市民団体等と連携・協働して、子どもの権利が尊重される学校への転換を進める必要がある。

  • ──参画の促進から影響力の発揮へ
    両角 達平
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_36-6_39
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     日本の国レベルでの子ども・若者の社会参画施策は、2010年に施行された子ども・若者育成支援推進法に基づいて定められた子供・若者大綱が担っており、その中で、子ども・若者の社会参画施策が講じられている。社会参画施策は主に①社会参画のための教育や啓発、②社会参画活動(ボランティアなど)の促進、③子ども・若者の意見の反映、の三つにより構成されているが、伸び悩む日本の若年世代の投票率や参加による社会変革の期待の低さから、有効な施策が打てているとは言い難い。本稿では、欧州の若者の社会参画施策を参照軸とし、日本の子ども・若者の社会参画施策の課題を指摘する。

  • 小玉 重夫
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_40-6_43
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     日本の子育て支援のシステムでは戦後長らく、専業主婦を前提にした近代家族モデルが原則で、それに対応する幼児教育の施設が幼稚園であり、それに対する例外として共働き家庭のための保育所があるという構造が続いてきた。そして前者の幼稚園は教育施設であって文部科学省が管轄し、後者の保育所は福祉施設であって厚生労働省が管轄するという、福祉施設としての保育所(厚生労働省)と教育施設としての幼稚園(文部科学省)の分断が差別的に固定化され、保育の社会化を阻む帰結をもたらしてきた。子ども政策の総合化は、こうした分断の解消をめざすものでなければならない。そのうえでポイントとなるのは、子どもを保護の客体としてではなく、権利の主体、市民としてみていくという視点であろう。そして、そうした市民としての子どもたちが集う保育園のような子育て施設は、グローバル・コモンズの発酵の場であるということができる。

特集
20年後の科学・学術と社会を見据えた リモデリング戦略を考える
  • 岩崎 渉
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_45
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー
  • ──未来に向けてアクションできる組織にするために
    岸村 顕広
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_46-6_52
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     日本学術会議若手アカデミーの第24期の活動を振り返りつつ総括する。そこから未来へ向けて学術コミュニティに求められる態度について考えるとともに、第25期の活動への展望と期待を述べる。

  • ──Global Young Academy総会・学会の日本開催に向けて
    新福 洋子
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_53-6_58
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     日本学術会議若手アカデミーの国際活動として、Global Young Academy(GYA)との連携はその主軸であり、2022年6月12日〜17日に第12回GYA総会・学会を「感性と理性のリバランス:包括性と持続性に向けた科学の再生」と題し、日本が主催となりハイブリット開催する。プログラムを通し、科学者の創造性を引き出すワークショップでその「感性と理性のリバランス」を体感し、公共プラットフォームとしての大学のあり方、科学者と社会との関係性、シチズンサイエンスを促進する社会システムの構築を議論する。会議後に科学と社会の関係性に関して若手科学者のアクションプランを含めた宣言を発出することを予定している。国際的に日本の若手科学者がリーダーシップを示し、創造性を高め、未来に対するビジョンを描き、自分たちが今後どうアクションしていくかを考え議論する機会としたい。

  • 石川 麻乃
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_59-6_64
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     本稿では、2022年3月1日に行われた日本学術会議公開シンポジウム「縮退時代において、20年後のまち・社会を考える~宇宙×都市×遺伝子×生態~」について報告する。45歳未満の若手研究者で構成される若手アカデミーが、未来に向けて“縮退時代”という、暗く、後ろ向きな視点を持つのはいささか夢がなさすぎると受け取られるかもしれない。そこで、本稿では、まず、私たちがこのシンポジウムを開催するに至った背景を概説することで、20年後を見据えたリモデリング戦略を考える上で正視すべき課題の交差点として“縮退時代”を位置づける。次に、今回主体となってシンポジウムを企画した「越境する若手科学者分科会」や、シンポジウムの内容、当日の様子、今後の取り組みについて紹介する。

  • 小野 悠
    2022 年 27 巻 6 号 p. 6_65-6_69
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

     地域と科学の関係が問い直される中、社会課題の解決に科学の知識や手法が有効であるだけでなく、科学する場としての地域が見直されている。第25期日本学術会議若手アカデミーでは、「地域活性化に向けた社会連携分科会」を新設し、地域における科学者の役割や地域活性化に資する公共・民間・学術の連携の検討を通じて、地域と大学、科学の望ましいあり方に向けて問題提起・実践することを目指している。

     2021年3月1日、分科会が主催となり公開ワークショップ「若手科学者が拓く地域と科学の関係」を開催した。愛知県の豊橋を事例に、専門分野の異なる若手研究者の具体的な地域への関わりを共有し、地域と科学、大学のあり方について議論した。科学する場、教育する場が大学キャンパスをこえて地域に拓くことが、大学のリソースを活用した地域活性化だけでなく、大学の研究・教育の質の向上、ひいては世界への発信に寄与する仕組みが重要であることが共有された。

特別寄稿
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編集後記
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