特殊教育学研究
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施設乳児の言語発達遅滞に関する研究 : 乳児のVocalizationの社会的強化について
坂本 竜生後上 千鶴子
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1973 年 11 巻 2 号 p. 1-14

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抄録

1.問題 出生後、早期に施設に入所した乳児の精神発達で最も特徴的なことは言語発達の遅滞である。このことは従来ホスピタリズムの問題として広く論議されて来た。この研究はかかる施設乳児の発達過程において、言語発達遅滞が生じ、この遅滞の発達の促進を目的とした刺激強化を行なうことにより、乳児の健全な言語機能の素地を培うことができるであろうという仮設を検証するのが目的である。2.方法 (1)対象児・生後一ヵ月以内に乳児院に入所した乳児で、C・A3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月の男児3名が実験の対象となった。(2)実験手続き・実験は次の三期にわかれる。無強化条件期間(Baseline)2日間 最初の2日間、実験者は乳児のベッドの傍に立ち、無表情なままに乳児の顔を眺める。観察者は乳児の発声、表情を細かく記録する。条件づけ期間(Conditioning) 2日間次の2日間、実験者は乳児がVocalizationをおこなったとき直ちに(1)はっきりと微笑を見せ、(2)「よし、よし」と3回やさしくいい、(3)乳児の顔を軽くさわるという順序で社会的刺激強化を行なう。消去期間(Extinction) 2日間最後の2日間は無強化条件期間と同様に実験者は乳児のVocalizationに反応することなく無表情に立っている。以上の手続きに従い、各期間に乳児が示したVocolizationを中心的測定単位とし、その他の随伴反応としてSmiling, Emotional reactionを観察した。3.結果 (1)何れの乳児においても実験条件がVocalizationの出現に与える影響は1%水準で有意であった。(2) VocalizationはConditioningの期間に最も増加し、Extinctionの期間においても保持される傾向にあった。(3)実験条件によるVocalizationの増加は、個々の乳児において若干の個人差があるが、その差は総体的発達と関連があるように思われる。(4) Vocalizationと同様にSmiling reactionも実験条件によって著るしく変化した。すなわち、条件づけ期間に反応数は急激な増加を示した。(5) VocalizationとSmilingの関係を分析すると3名のうち2名は高い相関があり、1名は低かった。その理由について幾つかの条件が考察された。

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© 1973 日本特殊教育学会
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