特殊教育学研究
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早期教育によるインテグレーションの試み : 高度聴覚障害児の場合(<特集II>インテグレーションをめぐって)
吉野 公喜
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1974 年 11 巻 3 号 p. 48-61

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抄録
本研究は、早期から園活動と併行した聴能教育プログラムを実施し得た高度聴覚障害児の普通幼稚園および保育園での適応状況と、その後の普通学級における適応現況とを、担任教師による評価と諸検査の結果とで分析し、聴覚障児教のインテグレーションの現実的問題に検討を加えることを目的としてなされた。その結果、次のことが明らかとなった。(1)集団的園活動を基礎に、加えて個別的な聴能教育(治療教育)を実施することによって、全体的行動領域、とりわけ言語領域で著しい学習の進展が認められた。(2)聴覚障害が高度であっても、早期から正常な言語環境のもとで普通児と、時に競争的、時に協同的な学習経験をすることによって、抽象化能力の高められることが認められた。抽象化能力は、ろう学校在籍児の聴覚障害児よりもはるかに高く、普通児に十分比肩し得るパフォーマンスを示していた。(3)パーソナリティおよび社会生活能力検査の結果にみる対象児の学級適応には、総じて積極性が認められた。しかし、読書能力においては、語の認知、読解に1〜1.5学年の発達的遅滞が認められた。この点は、抽象化能力が高いことと考えあわせる時、コミュニケーション能力のための教育的方策を具体化することによって改善が期待できる。(4)現状の学級運営においては、担任教師が高度聴覚障害児にゆきわたった個別指導をすることは、困難なことが明らかにされた。(5)母学級と難聴学級(ことばの教室)との連絡体制は、一応整っているにしても、普通学級担任教師のがわから、聴覚障害児が難聴学級へ通級している間にクラスの教科の学習が進むこと、そして彼らの教科の補充に対して責任のもてないことが明らかにされた。このことは、とくに校外通級の場合および中学年児において顕著に認められた。ここでとりあげた7症例は、現在普通学級在籍の3年生ないし4年生の高度聴覚障害児であるが、今後、高学年時における学級での適応状況を継続して追跡研究し、聴覚障害児のインテグレーションの問題点をさらに検討していきたい。
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© 1974 日本特殊教育学会
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