1989 年 27 巻 1 号 p. 37-44
一人の精神薄弱者更生施設入所者Mの、行動の自己調整機能を高める試みを、主に歩くことについて実施した。Mの突然の走り出しや座り込み、頭叩き、その場での排尿の軽減とともに、目的地やコースを理解して主体的・能動的に歩くようになることを目指した。個別的な教育的係わりの中で、音声言語信号に加え、身振り信号、写真信号による働きかけを行い、それらの信号がMの歩くことに係わる行動の調整を担うように図った。その結果、これらの信号がMの行動調整に関与するようになり、走り出しや座り込み、頭叩き、その場での排尿は著しく減少し、スムーズにかつ主体的・能動的に歩くようになった。これに対応して日常生活場面でも、歩くことをはじめ、より安定して集中した行動の調整が可能になった。歩くことを、運動機能や指示に従って歩けるか否かの問題として扱うだけでなく、より主体的・能動的に歩くことを通して生活空間や経験の拡大を図ることが重要であることを指摘した。