抄録
本研究では青年期の定型発達者を対象として,ASD(Autism Spectrum Disorder)傾向が高い者においてもASD者と類似した特性共感の困難が認められるかどうか,ならびにASD傾向が高い者でも,自身と性格特性が類似した他者に対してであれば状態共感は高まるのかについて検討することを目的とした。調査にはASD傾向を測るAQ(Autism Spectrum Quotient),特性共感を測るIRI(Interpersonal Reactivity Index),ある人物に対する状態共感を測る共感反応指標の3指標を用いた。その結果,ASD傾向が高い対象者は,ASD傾向が低い対象者に比べIRIの「共感的関心」得点が低かった。しかし自身と性格特性が類似した人物に対する共感反応指標における「共感的関心」得点は,類似していない人物に対するものよりも高かった。このことから,ASD傾向が高い者は,共感的関心における特性共感の困難が認められる一方で,自身と性格特性が類似した他者に対しての状態共感は高まる可能性があることが示唆された。