抄録
本研究の目的は、精神疾患の母親を有する人々に焦点を当て、学齢期にどのような環境でどのようなケア役割を取り、どのような精神的健康への影響を受けていたのかについて明らかにすることであった。精神疾患の母親と暮らした経験のある成人50名に質問紙調査を実施し、有効回答を得た。その結果、家庭でのケア役割の程度が高い場合、家族との関係性が両価的かつ共依存的なものになるリスクがあり、社会からの孤立感を抱えた中で悩みや不安を抱え続け、精神的健康に否定的影響を受ける状況に陥りやすいことが示唆された。よって、母親の病状の安定や、ケア役割の負担の軽減のための環境的支援、母親の病状の理解や「助けを求めてもよい」という考えの促進のための心理教育、家庭以外の心の拠り所や支えを作ることを目的とした心理的支援、社会への精神疾患に対するスティグマ払拭のための働きかけが、精神疾患の母親を有する子どもの支援に必要と考えられた。