糖尿病
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劇症1型糖尿病調査研究委員会報告
―疫学調査の解析と診断基準の策定―
花房 俊昭今川 彰久岩橋 博見内潟 安子金塚 東川崎 英二小林 哲郎島田 朗清水 一紀丸山 太郎牧野 英一
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2005 年 48 巻 Supplement1 号 p. A1-A13

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抄録

[目的] 我が国で確立された新しい臨床病型「劇症1型糖尿病」について, その疫学的・臨床的特徴を明らかにするとともに, 本疾患の診断基準を策定するため, 日本糖尿病学会の中に「劇症型糖尿病調査研究委員会 (以下委員会と略す) 」が組織された.
[方法] 本委員会は, 2つの調査研究を行った. まず, 調査研究1として, 委員の所属施設およびその関連施設を中心に, 劇症1型糖尿病の発症頻度を調査した. 次いで, 調査研究2として, 日本糖尿病学会会員に広く呼びかけ, 全国から劇症1型糖尿病が疑われる症例を収集し, その中から劇症1型糖尿病患者を認定した. これに調査研究1で判明した劇症1型糖尿病患者を加えた劇症1型糖尿病患者群と, 調査研究1で収集された自己免疫性1型糖尿病患者群とを比較して, 劇症1型糖尿病の病態を解析し, その特徴を明らかにした. 次に, これら劇症1型糖尿病の特徴を踏まえ, 「スクリーニング基準」および「診断基準」の策定を行った.
[結果] 調査研究1の結果, わが国では, ケトーシスあるいはケトアシドーシスで発症した1型糖尿病の19.4% (222名中43名) が劇症1型糖尿病であることが判明した. また, 137名が自己免疫性1型糖尿病と判定された. 調査研究2では, 全国から寄せられた症例のうち118名が劇症1型糖尿病と判定された. これに, 調査研究1で判明した劇症1型糖尿病患者43名を加えた合計161名の劇症1型糖尿病患者について検討したところ, 劇症1型糖尿病の発症に地域性や季節性は認められなかった. また, 自己免疫性1型糖尿病患者137名と比較した結果, 劇症1型糖尿病の特徴として次のことが明らかになった : 罹病期間が有意に短いこと, 前駆症状として感冒様症状 (発熱, 咽頭痛など) や消化器症状 (上腹部痛, 悪心・嘔吐など) が多いこと, 意識障害を来す頻度, 血糖値, 妊娠中または出産直後の発症者, 膵外分泌酵素の上昇頻度, 血清K値が有意に高いこと, 一方, 罹病期間, HbA1c値, 尿中・血中Cペプチド値, 動脈血pH, 血清Na値は有意に低いこと. 抗GAD抗体などの自己免疫性1型糖尿病に特異的な膵島関連自己抗体は, 95.2%の例で陰性であった. 陽性者においても, ほとんどの場合その抗体価は低値であった. これら2つの調査研究の結果を踏まえ, 委員会では, 劇症1型糖尿病を見逃さないための「スクリーニング基準」および, 劇症1型糖尿病を確実に診断するための「診断基準」を策定した.
[結論] 本調査研究により, 自己免疫性1型糖尿病とは異なる劇症1型糖尿病の疫学的・臨床的特徴がさらに明らかになった. また委員会は, 本疾患を見落とさないための「スクリーニング基準」と, 確実に診断するための「診断基準」を策定した. 劇症1型糖尿病は, 見落としや治療開始の遅れが直ちに患者の死につながる疾患である. 本委員会が策定した基準を利用することにより, 劇症1型糖尿病によって不幸な転帰をとる方が一人も生じないよう, 強く希望する.

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© 2005 一般社団法人 日本糖尿病学会
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