抄録
症例は34歳,女性.平成18年5月中旬よりαリポ酸を含む健康食品を摂取していた.6月初旬より動悸と手指の振戦を自覚,補食にて症状の消失を認めていた.6月中旬の空腹時血糖は92 mg/dl, インスリン抗体結合率は95%であった.HLAはDRB1 *0406を有し,Scatchard解析によるインスリン抗体のhigh affinity siteの親和性は0.067×108 l/mol, 結合能は27.3×10-8 mol/lであった.過去にインスリン使用歴はなく,インスリン自己免疫症候群と診断した.6分食を開始し,低血糖症状は消失した.インスリン抗体結合率は6カ月後31.9%に減少した.αリポ酸の還元型であるジヒドロリポ酸はin vitroにおいてインスリン分子のS-S結合に作用し,分子構造を修飾した.αリポ酸は健康食品として広く普及しており,インスリン自己免疫症候群の誘因として留意すべきと考えられた.