抄録
43歳女性.10歳発症の1型糖尿病で,発症後から頻回の低血糖で入退院を繰り返していた.22歳時,低血糖昏睡のため近医に入院.意識障害が約24時間続き,回復後より短期記憶障害が出現.25歳時当科に転院後も無自覚低血糖を頻回に起こし,血糖コントロールもHbA1c 9-11%と不良であった.短期記憶障害が続き,40歳頃から症状増悪し,2008年6月に入院.入院時HbA1c 11.0%,認知機能試験(Mini Mental State Examination)はほぼ正常,ウェクスラー記憶検査では,言語性,視覚性記憶は軽度の低下のみ,遅延再生は高度に低下しており健忘と診断.頭部MRIで両側アンモン角・歯状回の萎縮,脳血流SPECTで両側側頭葉内側の血流低下を認めた.本症例は低血糖脳症による健忘症と診断した.糖代謝異常が大脳の器質的異常の原因となった症例報告は少なく,日常臨床で留意すべき症例と考えられたため報告する.