2010 年 53 巻 5 号 p. 357-362
症例は肥満歴なく生来健康な62歳女性.入院3週間前よりみかんジュースを多飲し,口渇,多飲,多尿,体重減少が出現,随時血糖値998 mg/dl,HbA1c 13.9%,ケトアシドーシスで入院した.輸液とインスリン静脈内投与により治療し,上記症状は改善した.入院時のインスリン分泌が枯渇していたことと抗GAD抗体が8.1 U/mlと陽性であることより,当初は急性発症の1型糖尿病と考えた.しかし,入院時すでに網膜症があり長期の高血糖状態の存在が疑われ,また,入院後,強化インスリン療法によりインスリン分泌が回復し,その後約2年間経口血糖降下薬のみによる治療で比較的良好な血糖コントロールが維持された.これらの所見より本症例は,清涼飲料水の多飲を契機に緩徐進行1型糖尿病が一時的に増悪した例と考えられ,糖尿病ケトアシドーシスの鑑別診断上,貴重な症例と考えここに報告する.