抄録
症例はアルコール飲酒歴のない60歳代女性.50歳頃から糖尿病にて内服加療中であった.57歳から拡張型心筋症と高度難聴も合併していた.2年前から後頚部に20 cm大の柔らかな腫瘤状隆起が出現し,精査目的にて入院.血中乳酸/ピルビン酸比は16.8と高値であったが,血中脂質検査に異常はなく,HbA1c(JDS値)も5.8 %であった.頚部MRI検査では,T1およびT2強調画像において高信号を呈し,脂肪抑制にて信号低下を認めたことから脂肪成分と診断した.腫瘤部の生検では,脂肪腫症の診断であった.以上の所見と特異な外観から良性対称性脂肪腫症(Madelung病)と診断した.また,末梢血中のミトコンドリアDNA解析の結果,8363変異(G→A)を認めたことからミトコンドリア遺伝子異常による糖尿病と診断した.ミトコンドリア糖尿病に良性対称性脂肪腫症を合併した報告は,きわめて稀であり,貴重な症例と考えられた.