抄録
症例は42歳女性.突然の右上腕痛を自覚し,その後徐々に倦怠感,口渇,意識レベルの低下が出現し,5日後に当院救急外来を受診した.来院時HbA1c 15.8 %であり,血中ケトン体高値などから糖尿病性ケトアシドーシスと診断され,輸液及びインスリンによる加療が開始された.右上腕痛に関してはMRI検査で糖尿病性筋梗塞(DMI)と診断され,入院後に右肘部にも新たなDMIを発症したが,共に安静と保存的治療で改善した.DMIは誘因なく横紋筋に疼痛や腫脹を生じる極めて稀な糖尿病性合併症で,病因として血管障害や凝固線溶系の異常などが考えられている.DMI自体は自然経過で回復し短期的には予後の良い疾患ではあるが,その他の糖尿病性合併症が進行している場合には生命予後不良と言われている.このことから糖尿病患者に四肢疼痛などが生じた場合にはDMIを念頭に置き,注意深い観察をすることが重要である.