2022 年 65 巻 6 号 p. 312-318
我が国は超高齢化社会を迎え,低血糖を呈する非糖尿病の高齢者を診療する機会が増加している.今回,88歳男性で認知機能低下,不穏で救急搬送され,血糖38 mg/dLの症例を経験した.高インスリン血症を認め(349 μU/mL),インスリン抗体高値,Scatchard解析で低親和性高結合能のインスリン抗体を認めた.インスリン自己免疫症候群と関連するHLAを有さず,DRB1*04:04を認めた.インスリン自己免疫症候群を誘発することが知られているクロピドグレルを含む常用薬をすべて中止し,分割食,間食,さらに,ボグリボースを追加したが低血糖は改善しなかった.そのためプレドニゾロン30 mg/日から開始したところ低血糖は消失し,血中インスリンやインスリン抗体も徐々に減少した.既知のHLA遺伝要因を有さない高齢者でインスリン自己免疫症候群を発症することがあり,臨床上注意が必要である.