1979 年 22 巻 9 号 p. 1009-1017
回目の妊娠16週にて当科を初診, Scott Ibの眼底所見を呈し, 周到な治療管理下にありながら, 肺硝子膜症で新生児死亡を来した糖尿病妊婦の1例を経験した. 本症例の妊娠中の臨床経過から, 計画妊娠の重要性を示したい.
患者は, 昭和43年第1回目妊娠5ヵ月にて, 某病院で糖尿病と診断され (27歳), インスリン治療開始. 妊娠40週で3, 3009の健常男児を出産. 産後, グリベンクラミド15mgに変更. その後, 第2回目および第3回目妊娠は, 自然流産であった. 第4回目妊娠判明時から, 再びインスリソにより治療をうけていたが, 死産. 第5回目妊娠は新生児死亡, 第6回目妊娠は無脳児のため人工早産という多彩な産科歴を持っていた.
昭和51年5月 (35歳), 当科に紹介された時には, 第7回目の妊娠16週であり, 眼底所見はScott Ibを呈していた. 患者の強い希望により妊娠を継続し, 食事療法とインスリンの増量により, 比較的コントロール良好となった. 網膜症に対しては光凝固術を施行し, 尿路感染症に対しては抗生物質の投与を行った. 妊娠合併症の予防および血糖の厳格なコントロールのため, 妊娠35週から産科へ入院させたが, 血中estrogenが35週をピークに以後減少傾向を示したため, 39週で帝王切開を行い, 3, 3959の男児を得た. しかし, 生後25時間にて肺硝子膜症のため死亡した. なお母体の網膜症は妊娠中, 光凝固術を施行, 悪化はみられなかった.