抄録
糖尿病患者に眼筋麻痺が合併する頻度は比較的少ないものとされているが, 過去8年間に経験したいわゆる糖尿病性眼筋麻痺9例と糖尿病患者にみられた動脈瘤による動眼神経麻痺1例を報告し, その臨床像の特徴と鑑別診断上の問題点について若干の考察を加えた. 糖尿病性眼筋麻痺9例の内訳は, 男性2例, 女性7例で年齢は42~79歳 (平均63歳), 動眼神経麻痺7眼, 外転神経麻痺3眼で1例は右動眼神経麻痺と左外転神経麻痺を同時に合併していた. 症状としては複視が8例にみられ, 眼痛または頭痛が5例に認められた. 瞳孔については, 動脈瘤による動眼神経麻痺症例では異常を認めたが, 糖尿病患者にみられた動眼神経麻痺7例では1例に異常を認めたにすぎなかった. 眼筋麻痺は1~3カ月でほぼ正常に回復したが, 瞳孔異常の遺残が1例に認められた. 糖尿病は全例成人型で罹病期間は0.3~20年 (平均約8.5年) であったが, 麻痺発症時に糖尿病が発見された症例が1例認められた. 発症前コントロール状態は1例を除き良好もしくはやや良好で, 合併症としては綱膜症を7例中3例, 蛋白尿を9例中4例, 下肢腱反射異常を9例中5例と約半数に認め, 一方高血圧は9例中6例, 心電図異常は6例中5例, 胸部X線上大動脈硬化は9例中5例と半数以上に認められた.