抄録
インスリンの腹腔内投与により急激にひき起こされた高インスリン血症下において, ラット赤血球および肝細胞膜のインスリン受容体がどのような動態をとるかを検討した.
肝細胞膜の125I-インスリン結合率は, インスリン投与による急性高インスリン血症により, 10分後で既に対照群の結合率の59.6%まで低下しており, Scatchard plotの解析によると主に受容体数の減少にもとつくものであった. 膜からの125I-インスリンの解離と抽出インスリン量の検討から, 単に外来性インスリンが受容体を占拠したことにより肝細胞膜の125I-インスリン結合率が低下した可能性は否定された. 一方, 赤血球の125I-インスリン結合率は, インスリン投与後も有意の変動を示さず, 肝細胞膜との間に解離がみとめられた. インスリンを投与しない対照群においては, 赤血球と肝細胞膜の125I-インスリン結合率の間に有意の正相関 (r=0.6465, p<0.01) を認めた. 以上より次のごとき結論を得た. (1) インスリン投与により引き起こされた急性高インスリン血症下では, 肝細胞膜のインスリン受容体数はきわめて短時間に減少する. (2) 急激な血中インスリン濃度の変動のない状態においては, 赤血球インスリン受容体は標的細胞の一つである肝細胞膜のインスリン受容体の状態を反映している. (3) 条件によっては赤血球インスリン受容体は肝細胞膜のそれと必ずしも同一の動態をとらない.