1983 年 26 巻 11 号 p. 1089-1095
インスリノーマの診断に従来よりインスリン分泌刺激試験や分泌抑制試験が用いられているが, 診断精度や低血糖の危険性等において, 必ずしも十分な検査方法であるとはいえない.一方インスリノーマにおけるインスリン分泌のブドウ糖に対する用量反応関係は明らかにされていない.そこで今回, 2例のインスリノーマおよび健常者に注入ポンプを用いてブドウ糖注入速度を階段状に上昇させる持続静脈内投与 (step-Wise glucose infusion) を試み, 用量反応曲線を作製したところ以下の事実が認められた.
1) 種々インスリン分泌刺激試験で, 高インスリン反応が認められなかった症例において対照に比し高反応が観察された.
2) 用量反応曲線の左方移動が認められ, インスリン分泌刺激ブドウ糖域値の低下, すなわち腫瘍B細胞のブドウ糖認識異常がより明らかに示された症例が観察された.
3) インスリン分泌刺激ブドウ糖域値正常例において, 低血糖域より90mg/dlまで血糖を漸増させても, 血中インスリンの漸増はみられず, 本法にても腫瘍のインスリン分泌の自律性が観察されることが示唆された.
4) 術後の検査における用量反応曲線は健常人との間に差異を認めなかった.
5) 以上の検査は低血糖をおこすことなく安全に行いえた.
以上の方法で作製されたインスリン分泌のブドウ糖に対する用量反応曲線より, インスリノーマの診断に有用な多くの情報を得る可能性が示唆され, しかも安全で症例によっては非常に精度の高い検査であることが明らかとなった.