抄録
重症外耳道炎を誘因として発症した糖尿病性ケトアシドーシスの1例を報告する.
本例はインスリン依存性糖尿病発症後10年間に5回のケトアシドーシス性昏睡を起こした.この間の合併症の推移についても考察を加えた.
症例は22歳女性, 右耳介部疹痛, 耳漏, 意識障害ににて当科受診.尿糖 (++), 尿ケトン体 (++), 血糖280mg/dl, pH6.91, HCO3-2mEq/l, HbAlc 9, 5%, 2, 3-DPG 0.364μmol/ml RBCと著しいケトアシドーシス状態であった.外耳道炎の起炎菌はS.aureusであった.輸液と少量インスリン筋注療法にて, 血糖, pH, 2, 3-DPG, 尿ケトン体は正常化したが, HbAlcは高値を持続し, 低リン血症も認めた.HbAlcの高値, 2, 3-DPGの低値等より, 末梢組織低酸素状態が推定された.
1972年の第1回ケトアシドーシス性昏睡後, 白内障と末梢神経症の進行を認め, 以後, ケトアシドーシス性昏睡を繰り返すに従って, 他の合併症に比較して特に糖尿病性網膜症の進展を認めた.糖尿病性網膜症の増悪には糖尿病性ケトアシドーシスにこ伴う末梢組織低酸素状態が重要な役割を果していると思われた.