1985 年 28 巻 1 号 p. 19-26
軽症II型糖尿病における増殖性網膜症合併例 (増殖性前駆期を含む) について増殖性網膜症を有しない例と種々の比較検討をおこなった. 65歳以下のII型糖尿病で食事療法のみで良好なコントロールが得られている122名中, 増殖性網膜症例は12名であった. これら12名は網膜症 (-) 群, 単純性網膜症群に比し血糖コントロールには差を認めなかったが, 罹病期間が明らかに長く, 過去の最大肥満度が著明に高かった. それで網膜症 (-) 群の中から増殖性網膜症群12名と年齢, 性, 罹病期間をマッチさせて14名を選び比較すると, 増殖性網膜症群では治療開始までの無治療放置期間が明らかに長く, 過去の最大肥満度が高かった. また高血圧合併例も多い傾向にあった. さらに増殖性網膜症群では初診時の空腹時血糖, 血中遊離脂肪酸が網膜症 (-) 群に比し明らかに高く, また50g経口ぶどう糖負荷 (O-GTT) 時の耐糖能および血中インスリン反応はともに明らかに低下していたが, 食事療法にて良好なコントロールが得られた時点の75g O-GTTでは両群間に差を認めなかった. なお初診時から経過中に増殖性網膜症へと進展した例は2名のみであった. 以上, 増殖性網膜症を有する軽症II型糖尿病では, 食事療法により耐糖能は著明に改善したが, 肥満を伴った無治療放置期間が長く, その間にすでに重症網膜症へと進行した例が多い事が示唆された.