1985 年 28 巻 11 号 p. 1229-1234
糖尿病性血管障害の発症と進展の一因として血管壁局所における血小板由来 thromboxane A2 (TXA2) と血管壁由来prostacylin (PGI2) の産生異常が重視される. 著者らは増殖性網膜症合併糖尿病患者 (DP), 非合併糖尿病患者 (DN) および同年齢正常対照群の血中6 ketoprostaglandin F1α (PGI2の安定代謝産物: 6 KFと略) を比較し, また6KF値とcollagen誘発血小板凝集能および凝集時のTXB2 (TXA2の安; 定代謝産物) 産生量との関連性について検討を加えた. さらにstreptozotocin (STZ) 誘発糖尿病ラットの大動脈PGI2産生能と, 血小板機能亢進機序におけるPGI, 産生異常の意義について考察した. なお, 血中6 KF, TXB2はいずれもRIAにより, また大動脈産生PGI2はbioassayにより測定した. その結果,(1) 糖尿病患者血中6KF値は正常対照群に比較して低値を示し, 特にDP群で有意の低下を認めた. (2) DP群の血小板凝集能とTXB2産生量はDN群ないし正常群に比較してともに有意の高値を認めた. (3) 血中6KF値と血小板凝集能およびTXB2産生量とはいずれも有意の負相関を示した. (4) STZ誘発糖尿病ラットにおける大動脈の PGI2 産生能には有意の低下を認めた. 以上の成績から, 糖尿病患者における流血中 PGI2低下および血管壁局所におけるPGI2産生の低下は, 糖尿病性血管障害の進展因子と考え1られる血小板凝集能亢進と密接に関連する可能性が強く示唆された.