糖尿病
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高度の神経障害を伴う糖尿病に併発したSIADHの1例
井上 薫稙田 太郎中川 瑞穂田添 明彦小野 弘井口 登与志梅田 文夫井林 博
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1987 年 30 巻 2 号 p. 181-185

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抄録

高度の糖尿病性神経障害に使用したCarbamazepine (CBM) によりSIADHの顕性化した1例を報告する.患者は55歳女性.入院2年前に糖尿病と診断され, 6カ月前よりるい痩著明となり, 家事不能となった.FBS高値 (350mg/dl) でインスリン治療 (Lente20単位/日) が開始されたが, その後両下肢のジンジン感と疼痛が増強しCBMが有効であった.入院時所見は143cm, 28kg.血圧120/70, FBS150mg/dl, HbA19.6%, 尿蛋白 (-).白内障 (+), 神経学的に両下肢の知覚および腱反射はすべて低下ないし消失し, MCV32.4m/scc, SCV誘発不能.R-Rテスト2.3拍/分, 腓腹神経生検で有髄, 無髄神経線維の高度の脱落を認めた.腎機能および甲状腺, 副腎皮質機能は正常.血清Naは常に低下 (127~131mEq/l), 水負荷試験で尿浸透圧 (340mOsm/l以上) は血漿浸透圧 (259mOsm/l以下) よりも常に高値で, かつADHの抑制を認めなかった.また低Na血症にもかかわらず, 尿中Na排泄量の減少を欠き, むしろ高値を示した.以上の成績はいずれもSIADHに合致する所見である.本例でとくに興味深い所見は, CBM中止後約1カ月間にわたり低Na血症が持続し, さらに血清Naが正常化した時点 (CBM中止2ヵ月後) の水負荷試験でなおADH分泌異常と水利尿不全を認めた点である.本症例は高度の糖尿病性神経障害とADH分泌異常との関連を示唆する興味ある症例と考える.

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© 社団法人 日本糖尿病学会
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