糖尿病患者において尿中NAGが増加していることはよく知られているが, その臨床的意義は十分明らかにされていない.糖尿病患者109例を対象に, 尿中NAGの増加との関連が予想された臨床所見9項目 (年齢, 罹病期間, 空腹時血糖, HbA
1c, 蛋白尿, BUN, s-creatinine, s-β
2 microglobulin, 糖尿病性網膜症) について多変量解析を行った.その結果, 糖尿病患者の尿中NAGはHbA
1C, 蛋白尿, 年齢の3因子と有意の偏相関 (p<0.01) を示し, なかでもHbA1cとの関連が強く認められた.この成績に基づき尿中NAGが血糖コントロールの時間的経過とどのような関係にあるのかをみるために外来患者84例, 入院患者15例を対象として分析した.外来糖尿病患者のうち2か月間の経過でHbA
1cが明らかに増加あるいは減少した症例は20例あり, これらの例では尿中NAGはその変動に一致して有意に増加あるいは減少した.またHbA
1cが変化を示さなかった残りの64例では尿中NAGの変動はみられなかった.
入院患者15例中10例では入院後1週間にて血糖コントロールの急激な改善が得られた.これらの例では全例, 尿中NAGは入院4週間後に正常化した.一方血糖コントロールの改善が得られなかった残りの5例では尿中NAGの明らかな変動はみられなかった.
経口75g糖負荷試験における血糖の上昇に対し, 尿中NAGは増加しなかった.
以上の成績から糖尿病患老における尿中NAGは蛋白尿の程度のみならず高血糖に基づく何らかの代謝障雷を反映して, 可逆的に変動するものと考えられた.
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