糖尿病
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繰り返す悪心, 嘔吐に対して抗うつ剤が有効であったインスリン依存性糖尿病の1例
須藤 裕一郎伊藤 光泰
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1987 年 30 巻 8 号 p. 767-772

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抄録

糖尿病患者に抑うつ症や神経症がかなり高率に認められること, また合併症としての中枢神経障害の存在が最近注目されている. われわれはケトアシドーシスや胃無力症がなく, 抑うつ症により嘔吐をくりかえしたインスリン依存性糖尿病の1例を報告する. 症例は33歳の女性で, 1971年に糖尿病を発症, 過去3回悪心, 嘔吐にて当院に入院, 1985年3月14日より再び同症状が強く入院した. 入院時眼底Scott IIIa, アキレス腱反射, 振動覚の低下を認めた. 血糖コントロールとともに約3ヵ月で嘔吐は消失した. 以後良好な血糖コントロールでケトアシドーシスもないにもかかわらず悪心, 嘔吐を生じ再度入院した. 心電図R-R間隔CV=0.07%の著しい低下, 起立性低血圧から自律神経障害を認めたが他の神経学的検査, 消化管造影は異常をみとめなかった. 精神科的検査で糖尿病が心因となった抑うつ状態と診断, 抗うつ剤治療を開始, 翌々日より嘔吐は完全に消失しその後12カ月間症状の改善をみた. 糖尿病患者の原因不明の消化器症状において, 一部では精神症状とくにうつ状態が関与していることを考慮する必要がある.

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© 社団法人 日本糖尿病学会
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