1987 年 30 巻 9 号 p. 845-851
Bacitracinは Bacillus licheniformisから得られるcyclic polypeptideでペプタイドホ, レモンの崩壊を防ぐproteolytic inhibitorとして汎用されてきた. ところが最近, bacitracinの細胞外での本来の働き以外にも細胞内で代謝に直接作用を持つことが報告されるようになった. そこでわれわれはWistar系雄ラットの単離脂肪, 肝細胞を用いて, bacitracinの代謝に及ぼす直接作用を検討した. 単離脂肪細胞実験で, bacitracinは, epinephrine, theophylline, dibutyrylcAMPによるlipolysisに対し, insulinと同様の抗脂肪分解作用を有したが, glucagonによるliPolysisに対しては, 1mMまではその作用を増強し, それ以上の濃度では逆に抑制的に働いた. このことは単離肝細胞実験でglucagonによるglucose productionやketogenesisで同様に観察された. 以上よりbacitracinは通常使われる濃度 (01-5mM) で, 直接的に代謝過程に作用し, ペプタイドホルモンの標的細胞におけるin vitroの実験にbacitracinを使用することの危険性が明らかとなった.