抄録
低比重リポタンパク (LDL) のなかでも小型で密度の高いLDL (Small Dense LDL) に催動脈硬化性が高いことが最近注目されている.糖尿病腎症は腎症のない糖尿病より心血管合併症の発症頻度が著しく高いことからこれにLDLの質的異常が関与しているか否かを調べる目的で種々の程度の糖尿病腎症患者のLDL粒子サイズを測定した.インスリン非依存型糖尿病 (84名) は87%が高血圧を合併していたことから対照群は本態性高血圧患者 (26名) を選んだ.腎症はアルブミン尿 (AU) の程度から以下の4群に分類した.尿中アルブミン/クレアチニン比が20mg/g以下を正常AU, 20-200mg/gを微量AU, 200-1,000mg/gを顕性AU, 1,000mg/g以上を多量AU. LDL粒子サイズは全血清をSudan Black Bで前染色して3%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し, VLDLとHDL間に泳動されたLDLをVLDLからの移動度 (Rf) であらわすLipoprint TM LDLsystemを用いて測定した.対照群においてもNIDDMでもRfは正常AU群に比し微量AU群で高値 (すなわちLDLの粒子がより小型) であり, 多量AU群ではさらに高値を示した.多量AU群は他群に比し血清脂質, アポタンパクBは高値, HDLコレステロールは低値を示した.LDL粒子サイズは血清トリグリセライド (TG) と負に相関することが知られている.しかし重回帰分析の結果, AUの程度とRfはTGと独立して相関することや, TGが150mg/dl以上の高TG血症を除外しても糖尿病性腎症でRf値が高値であることより糖尿病性腎症でLDLサイズが小型化する理由は高TG血症以外に腎障害に伴う他の代謝異常が想定された.本研究の結果は糖尿病性腎症ではLDLの小粒子化し, これが本症で多発する心血管合併症発症の危険因子として関与しうることを示唆した.