抄録
インスリン治療を要する急激な高血糖状態の検索中に膵頭部腫瘤が発見され, その術後耐糖能が改善した70歳女性例を報告する. 臨床的には, 高血糖に基づくと考えられる症状のみで, 腹痛や黄疸はなかった. 糖尿病の家族歴がなく, これまで尿糖の指摘はなかった. しかし, インスリン分泌能の低下は高度ではなく, 臨床経過よりインスリン非依存型糖尿病の悪化と考えられた. 腹部CTで主膵管の拡張を伴う膵頭部の嚢胞性病変, さらに内視鏡下で腫大した十二指腸乳頭開口部より漏出する粘液がみられたことより粘液産生膵腫瘍が疑われ, 腫瘍摘出術を行った. 摘出標本は粘液産生主膵管内乳頭腺腫と診断された. 術後インスリン分泌能に改善がみられ, インスリン治療は不要となった. 本例での一過性の耐糖能低下は, 主膵管内で発育する腫瘍により, その部分的狭窄をきたし, これによりインスリン分泌能が影響を受けたと考えられた.