1998 年 41 巻 4 号 p. 267-275
血管内皮細胞障害のマーカーである血中トロンボモジュリン (TM) 値測定の糖尿病における臨床的意義を明らかにするために5年間の経過観察を行った. 観察開始時点で血中TM値が高値であった群では, その後の血糖コントロールの良否が血中TM値の推移に大きく影響しており, 血管内皮細胞が障害されていると考えられる例では血糖コントロールの影響をより受け易いことが示唆された. また, 血中TM高値群では糖尿病腎症および網膜症の有病率が観察期間を通じて高率であり, とりわけ血糖コントロール不良群では, 腎透析に至った例があるなど重症例が多く認められた. さらに, 冠危険因子である高脂血症かつ/または高血圧症を有する例で心筋虚血の有病率を比較すると, 血中TM高値群ではジピリダモール負荷201 Tl心筋シンチ陽性患者が有意に高率で認められ, この結果は安静時心電図上の虚血所見や狭心痛を認めない無症候性の症例においても同様であった. よって, 血中TM値の測定は, 細小血管症の病態把握ばかりではなく, 心筋虚血, 特に無症候性心筋虚血合併患者を検出する上でも有用な指標になると判断された.