凍結および乾燥研究会会誌
Online ISSN : 2432-9916
Print ISSN : 0288-8297
8. 豚胚の凍結保存へのアプローチ(動物,セミナー「生物遺伝子資源の保存」)
小島 敏之遠藤 健治氏里 由紀夫藤野 幸宏富塚 常夫小栗 紀彦
著者情報
キーワード: 凍結保存, 豚胚, 卵黄, 低温傷害
ジャーナル フリー

1989 年 35 巻 p. 97-108

詳細
抄録
本稿は,豚胚の凍結保存研究の一端を紹介することを目的としている.豚胚の-196℃での保存は未だ成功例が得られていない.本研究では豚胚の高い低温感受性を確実に克服することが凍結保存を成功させるための必須条件であるとの仮説のもとに,哺乳動物精子のコールドショックを防止するために利用されている卵黄を低温感作試験用および凍結保存試験用の媒液に5%あるいは10%の濃度で添加し,その効果を培養開始一定時間後の形態により判定した.雄許容後5〜6日目に外科的に子宮から回収した初期胚盤胞期から脱出胚盤胞期までの胚を供試した.4℃に瞬時暴露する低温感作試験では,卵黄5%添加区で発育胚が得られた(10/21;低温無感作区,29/30).耐凍剤として10%グリセロールを用いた凍結保存試験では,室温から一7℃まで分速1℃で,同温度で氷晶形成誘起後-36℃まで分速0.3℃で冷却し,さらに液体窒素中に急冷した後に急速融解した結果,卵黄10%添加区で24時間培養後に50%(7/14)の生存率が得られた.卵黄の添加が両試験で有効であったことから,低温傷害が豚胚の凍結傷害の原因のひとつであること,およびそれが細胞膜とくに脂質二重層に起因するものであることが示唆された.体外培養系で発育したものと同一群の胚を受胚豚に移植したが受胎例は得られなかった.最後に,本研究会誌に発表の機会を与えて戴きました関係者各位および本稿を校閲して戴いた農水省畜試繁殖部長花田章博士に感謝します.(追加)当研究室において,液体窒素中に6または8日間保存した梅山豚の7日目胚(脱出胚盤胞)8個を他品種の豚より採取した新鮮胚(脱出胚盤胞)4個とともに1頭の受胚豚に移植した結果,凍結胚由来の子豚1頭と新鮮胚由来の子豚2頭が生まれた.
著者関連情報
© 1989 低温生物工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top