緑膿菌ファージ8株の溶菌液を等量の滅菌蒸留水,10及び20%グリセリンとそれぞれ混合し,-20℃で1週間及び1ヵ月間凍結保存し,プラーク・フォーミング・ユニット(PFU)を調べたところ,1株を除いては良好に保存されていた.例外は,浸透圧感受性であるファージ24(IFO 20050)で,グリセリン存在下,-20℃で凍結保存すると著しいPFUの低下が見られた.また,グルコース,シュクロース存在下でも,グリセリンと同様な傷害が見られたが,溶解性の低いイノシトール存在下では,傷害は軽減された.浸透圧感受性であることが知られている大腸菌T偶数系ファージも,グリセリン存在下-20℃での凍結保存に感受性を示した.グリセリン存在下でも,ドライアイス・エチルアルコールで急速凍結して-80℃で保存したときには,傷害は軽微であったが,急速凍結しても-20℃で保存したときは,著しくPFUが減少することから,この傷害は,融解時における浸透圧の急激な変化によって引き起こされているのではないことが示唆された.(i)著しい傷害を起こす糖類を添加した溶菌液では,-20℃で水和水がかなり融解していること,(ii)グリセリン存在下,-20℃で凍結保存し,融解するとファージ粒子からDNAが漏出していること,(iii)グリセリンと両親媒性の物質を共存させ-20℃で凍結保存したとき,傷害が軽減されたことから,糖類存在下で凍結したとき,親水性相互作用がファージ粒子を構成している蛋白質の疎水性領域に働いて立体構造の変化を引き起し,それが引き金となって,融解した水和水を介してDNAを漏出させるのが,この傷害の原因と考えられた.
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