抄録
微生物の凍結乾燥生残率を高める条件の検討は,従来,微生物側の因子を無視し,試料とする微生物の集団の1個1個が凍結あるいは乾燥の過程の物理的刺戟あるいは化学的影響に対して,ほぼ同様の抵抗をもつという仮定においてなされてきた。乾燥という微生物にとつてあまり都合のよくない過程を経る場合,生き残るものと死ぬものとが生ずるのは,次の2つの原因による場合が推定される。第1は,全くのチヤンスによるものであり,第2は,もともとの試料とすれば微生物の集団に,抵抗の強いあるいは弱い個々が入り混じつて存在していたということが原因として考慮されよう。そこで演者らは,比較的に抵抗の溺いVibrioを試料とし,一定の条件のもとにその凍結乾燥をおこない,集団の中の個々において抵抗の度合が異なるかどうか,また,異なると仮定した場合に,乾燥の過程を経た生き残るものに抵抗の強いものが撰択的に存在するものが,あるいは,乾燥操作を経てあとの培養に,再三乾燥操作を重ねた場合に,次第に抵抗力が増強されるかどうか,以上の諸点について検討を加えた。現在の実験成績の範囲では,生残率の差異は,菌体側の因子よりもむしろチヤンスによるものと推定するより他はないようであるが,実験は未だ充分でない。現在までの実験成績を示して,御意見を徴したい。