抄録
本論考は、シリア・ダマスカス近郊のグータにおける文学的景観を事例に、観光文学におけるテクスト空間のレジリエンスについて論じるものである。観光と文学をめぐる関係はこれまで、文学研究における文学観光と、観光研究におけるコンテンツ・ツーリズム論から議論されてきた。それに対して本論考では、文学をめぐるテクストや現実の相互交渉によって生成されるテクスト空間の果たす役割に注目してきた。その際、本論考ではテクスト空間としてのシリア・ダマスカス近郊グータの文学的景観に着目して分析を行った。一連の分析を通じて、時代・社会の変化にともなって文学的景観が現実では消失するなかでも、テクストのなかでは描かれてきた点を明らかにした。ここでは、現実とテクストが交錯する文学的景観という一つの「テクスト空間」が、文学を通じて人びとの感情を社会に喚起することで、現実とテクストを再生していく様を描き出した。その際、文学的景観が余暇活動と結びついてテクストや現実を再生していく様を示した。それゆえ、観光文学における文学的景観とは、文学を通じて人びとの感情を社会に喚起し続ける媒体として機能している点を、観光文学におけるテクスト空間のレジリエンスとして結論づけた。