【目的】β3アドレナリン受容体は主に脂肪細胞膜上に分布しており,脂肪分解や熱産生を促進することから,抗肥満効果に関係する受容体として注目を浴びている.しかし、臨床試験においてβ3アドレナリン受容体アゴニストは副作用として循環動態への影響が問題になっている。我々は、今回雄性カニクイザルを用い,麻酔下におけるβ3アドレナリン受容体アゴニスト投与による心循環動態の評価を行った.【方法】ペントバルビタール麻酔下にて,雄性カニクイザル(3から7才)の循環動態を測定した。血圧(収縮期及び拡張期血圧)は大腿動脈にカニュレーションを施し,圧トランスデューサーを介して血圧測定用アンプで増幅し,心拍数は収縮期血圧より瞬時心拍計測用アンプを介してHEM 3.5(NOTOCORD SYSTEMS S.A.)に連続的に記録した.心電図は動物用全自動解析心電計を介してECG Processor(SBP-2000,株式会社ソフトロン)に連続的に記録した.今回実験に用いたβ3アドレナリン受容体アゴニストは,前腕橈側皮静脈に急速静脈内投与した.【結果および結論】β3アドレナリン受容体アゴニストのCGP12177(0.3 mg/kg)の投与では,収縮期及び拡張期血圧ともに持続的な低下を示した.一方、心拍数は投与直後から持続的な減少がみられた.また,心電図には影響を及ぼさなかった.CGP12177投与直後から心拍数の減少がみられたことから,心筋β3アドレナリン受容体は陰性変時作用を持つことが示唆された.また心拍数の減少と同時にみられた持続的な血圧低下は,血管平滑筋弛緩による血管拡張によるものと考えられた.ヒトにおいて心血管系の β3アドレナリン受容体は内皮由来型NOS(eNOS)活性を促進することが言われている.今回のサルにおけるCGP12177による心拍数の減少及び血圧低下は、β3アドレナリン受容体を介した心筋および血管内皮細胞内eNOS活性化の可能性を示唆した.