抄録
[目的] 近年,ヒトにおける臨床検査では,自動血液分析装置により測定された網状赤血球ヘモグロビン含量(CHr)等の網状赤血球系パラメーターが貧血及び造血機能等の診断に応用されている。一方,実験動物ではこれらに関する報告例はほとんどみられず,血液・造血毒性を評価する上での有用性は明らかではない。本発表では,骨髄毒性物質を投与したラットを用い,造血抑制の回復過程におけるCHrの動きに着目して,非臨床試験の造血能評価における網状赤血球系パラメーターの有用性を検討した。
[方法]9週齢の雄性Crj:CD(SD)IGSラットにメトトレキセート(MTX)の20mg/kgあるいはシクロフォスファミド(CP)の50mg/kgを単回腹腔内投与した。投与後は,無麻酔で鎖骨下静脈より経日的に採血して,自動血液分析装置によって網状赤血球ヘモグロビン含量(CHr),高・中・低吸光網状赤血球数(H Ret,M Ret,L Ret),網状赤血球数(Ret),赤血球数(RBC),ヘモグロビン濃度(Hgb)等を測定した。
[結果及び考察]MTX群・CP群ともにRetの減少が投与翌日から,RBC及びHgbの減少が投与後3日目から認められ,造血抑制の発現は明らかであった。その後,MTX群・CP群ともに投与後7日目にRetが顕著に増加し,RBCも増加傾向を示した。網状赤血球系パラメーター(CHr,L Ret,M Ret,H Ret)では,MTX群,CP群ともに変動がみられ,特にCHrはMTX群で投与翌日から投与後5日目まで,CP群で投与後3から5日目以降明らかな高値を示した。L Ret及びM Retは,MTX・CP群とも投与翌日から投与後5日目まで減少が認められ,H Retは投与翌日から投与後5日目まで減少傾向が認められた後,投与後7及び10日目に高値を示した。以上の通り,CHrは,造血抑制の回復過程において,他のパラメーターが変動する前から増加し,持続的な変化を示すことから,造血機能の回復を早期かつ鋭敏に検出できるパラメーターであると考えられた。