抄録
【目的】ラットを用いた安全性試験では、被験物質の骨髄への影響を評価するために、骨髄塗抹を用いた形態学的検査や骨髄有核細胞数の測定が実施されている。しかし現在、イヌで骨髄有核細胞数を測定した報告は無い。今回我々は、簡便かつ短時間でイヌ骨髄中の有核細胞数が測定できる方法を検討し、その方法を用いて測定を実施したので報告する。【方法】イヌ (ビーグル、6 - 9ヶ月齢) から採取した骨の両端を切り落とし、ペンチで押しつぶして湧出してくる骨髄を針先等で均一にした後、1μlをマイクロディスペンサーで採取した。これをウシ新生児血清(非動化、EDTA-2K含有)2 ml中に移して泡立てないようにピペットで攪拌することにより骨髄細胞浮遊液を調製し、自動血液検査装置ADVIA120 (Bayer Corp.) で測定して骨髄有核細胞数を得た。この方法を用いて骨の部位別 (肋骨、胸骨) の骨髄有核細胞数を比較し、その後、9ヶ月齢の正常ビーグル犬(雌雄、胸骨)の骨髄有核細胞数を調べた。また、6ヶ月齢のビーグル犬 (雄) に血液毒性のある化合物Aを投与し、末梢血の血液学的検査ならびに胸骨骨髄の有核細胞数の測定と塗抹標本上での細胞分類を行い、骨髄への影響の評価における本法の有用性を検討した。【結果と考察】第6肋骨と第5胸骨、第5胸骨と第6胸骨の骨髄有核細胞数の比較では差は認められなかった。9ヶ月齢の正常ビーグル犬(第6胸骨)の骨髄有核細胞数は雄で17.6 (105/μl)、雌で19.0(105/μl)であった。また、化合物A投与によって貧血 (末梢血) が生じた動物には骨髄有核細胞数の減少が観察され,骨髄塗抹標本の検査で赤芽球系細胞、骨髄球系細胞の減少が認められた。【まとめ】イヌにおいても骨髄有核細胞数計測は可能であり、被験物質の骨髄への影響を評価する上で有用であることが確認された。