抄録
【緒言】トキシコゲノミクスプロジェクトは国立医薬品食品衛生研究所と製薬企業17社による共同研究であり,遺伝子発現データを用いた安全性予測システムの開発を目標としている.遺伝子発現実験において,RNAの品質はデータの精度に影響を与えることから,サンプル採取の際には迅速に保存する必要がある.しかし,毒性試験ではRNAサンプルの保存が最優先とは限らないため,時間経過によるRNAの分解が心配される.我々はRNA安定化試薬であるアンビオン社のRNAlater reagent(以下,RNAlater)に組織を保存するまでの時間とRNAの安定性に関しての検討を行った(検討1).また,RNAlaterでの室温および4℃の保存期間についても検討した(検討2).【方法】検討1:1匹のラットの肝臓から得た約10mgの組織片を氷上あるいは室温で10,30,60,120および240分放置した後,RNAlaterで1晩4℃保存した後,-80℃で凍結保存した.検討2:検討1と同様な組織片を摘出後10分以内にRNAlaterに浸して,4℃あるいは室温で1,3,8および15日保存した後に,-80℃で凍結保存した.各サンプルについてRNAをRNeasy mini columnで抽出し吸光度測定後,電気泳動およびβ-actinのreal-time PCRでRNAの品質の比較を行った.【結果および考察】検討1:室温で120分以上保存した際にβ-actinの発現量が減少したが,氷上保存では変化はなかった.検討2:RNAlaterに漬けて室温で保存した場合は,β-actinの発現量がわずかに減少したが,4℃では変化はなかった.以上より,肝組織から安定してRNAを抽出する場合は,組織の取り扱いを氷上で,凍結前のRNAlater保存は4℃で行うことが望ましいと考えられた.