抄録
【緒言】トキシコゲノミクスプロジェクト(TGP)は国立医薬品食品衛生研究所と製薬企業17社によって2002年に開始されたプロジェクトである。TGPでは約150化合物について、ラットin vivo、ラット初代培養肝細胞およびヒト初代培養肝細胞の一連のセットで曝露試験を実施し,遺伝子発現及び毒性学的データを蓄積している。我々はそのデータを基にした安全性予測システムの開発を目指している。本研究では基礎的検討として、ラット腎臓を乳頭、髄質、皮質に分離して遺伝子発現解析を行い、遺伝子発現プロファイルを部位間で比較した。【方法】6週齢雄性SDラットから摘出した腎臓を、乳頭、髄質および皮質に分離し、それぞれGeneChip Rat Genome 230 2.0 Array (Affymetrix) にて遺伝子発現を網羅的に解析した。【結果および考察】腎機能(尿生成、有害物の排出、ホメオスタシス、およびレニン、プロスタグランジン、エリスロポエチンの産生・分泌など)と関連が深い遺伝子に着目すると、乳頭、髄質および皮質間で発現量が異なる遺伝子が多数確認された。例えば、尿素輸送に関連するsolute carrier family 14 member 2(Slc14a2)遺伝子は、皮質<髄質<乳頭で発現量が高く、グルコース再吸収と関連するNa+ dependent glucose transporter 1(Naglt1)遺伝子は、乳頭<髄質<皮質で発現量が高かった。腎臓の各部位における遺伝子発現を網羅的に解析した本研究結果は、腎機能の生化学的・生理学的heterogeneityを研究する一助となる。更に毒性学的には、化合物による腎臓の障害部位と、各部位の遺伝子発現プロファイルを組合せて解析することで、より高度な毒性メカニズム解析が可能となる。