抄録
【緒言】トキシコゲノミクスプロジェクトは国立医薬品食品衛生研究所と製薬企業17社による共同研究であり,遺伝子発現データを用いた安全性予測システムの開発を目標としている.遺伝子発現実験において,RNAの品質はデータの精度に影響を与えることから,RNAサンプルの保存条件は重要である.我々はRNA抽出にキアゲン社のRNeasy kitを採用しており,その構成試薬であるBuffer RLT lysis buffer(以下RLT)を用いて肝組織および培養細胞の溶解を行っている.この保存方法はRNA抽出に使用した残りのサンプルをRLT溶解液の状態で保存できるため,再実験や貴重なサンプルの保存に有用である.本研究では,RLTに溶解した肝組織を,液体窒素,-80℃あるいは-20℃で保存した後,サンプル中のRNAの安定性を調べることにより,保存条件の違いがRNAの品質に及ぼす影響について検討を行った.【方法】1匹のラットから得た肝組織片10 mgにつき100μLのRLTを添加し溶解した後,組織溶解液を100μLずつ分注し,3つの方法(液体窒素,-80℃,-20℃)で保存した.各条件で3日,7日,1,3,6および12ヵ月保存した後,RNAをRNeasy mini columnで抽出し吸光度測定後,電気泳動およびβ-actinのreal-time PCRでRNAの品質の比較を行った.【結果および考察】12ヵ月間の保存期間中,液体窒素,-80℃および-20℃の保存条件で,RNAの28S/18Sのパターンおよびβ-actinの遺伝子発現量に大きな差はなかった.これらの結果から,RLT組織溶解液でRNAを安定化したまま保存できるだけでなく,RNA安定化試薬:RNAlater reagent(アンビオン)による保存が不向きな培養肝細胞の保存にもRLTが応用可能であると考えられた.