抄録
(目的)10%中性緩衝ホルマリン液で1日,7日および2週間固定したラットの肝臓からパラフィンブロックを作製し,RT-PCRでmRNAの増幅が得られるRNAを抽出するための条件を検討した。(材料と方法)雄性IGSラットの肝臓を採取して一部を10%中性緩衝ホルマリン液にて固定し,1日後,7日後および2週間後に,常法にしたがってパラフィン包埋した。その後10μmに薄切し,Optimum FFPE RNA Isolation Kitを用いて切片2枚からRNAを抽出した。それとは別に,凍結保存した肝臓からTrizolを用いてRNAを抽出した。得られたRNAの1μgを逆転写し,内部標準遺伝子であるGAPDH,β-actinおよび酵素CYP3A1についてABI PRISM 7000を用いてリアルタイムPCRを実施した。(結果)Kit標準のRNA抽出プロトコル(脱パラフィン→37℃ 3時間でproteinase K処理→フィルターに吸着→洗浄→溶出→DNase I処理)では,ホルマリン液での固定時間として24時間以内が推奨されており,本検討のような長時間の固定標本では良好なRNAは得られなかった。そこで,proteinase Kの処理温度と時間を変更(温度:45または60℃,時間:3,8,16または24時間)し,最適な抽出条件を調べた。その結果,ホルマリン1日固定のブロックでは60℃ 8時間,7日および2週間固定のブロックでは60℃ 16時間のproteinase K処理条件でmRNAが最も高率に検出された。mRNAの定量値は,ホルマリン固定時間が1日→7日→2週間と長くなるほど低下し,凍結標本との比較でそれぞれ7-17%,2-5%,1-2%であった。しかし,内部標準遺伝子との比率(GAPDHとCYP3A1,β-actinとCYP3A1の比)に,固定時間の延長による影響はみられなかった。(結論)ホルマリン固定時間の延長により経時的なmRNA定量値の低下が認められたが,各遺伝子の定量値の比率は保たれていたことから,適切な抽出条件では2週間固定後のパラフィンブロックでもmRNA発現量を調べることが可能であると考えられた。