抄録
(目的)初代肝細胞を用いた薬効毒性の評価系は、一般に操作が容易な単層培養系が用いられているが長期の機能維持は困難である。スフェロイド等の三次元培養系は長期間にわたり機能維持できるが、操作が煩雑で普及していない。上記の問題点を解決するため、竹澤らは優れた強度とタンパク質透過性を有した「1型コラーゲンゲル薄膜」培養担体を開発した。ゲル薄膜をプレート底面からピンセットで剥離できるので、細胞底面側からの栄養供給、担体裏面への細胞培養や担体を介した薬物透過の解析等が可能になる。しかし、ラット初代肝細胞については、ゲル薄膜を用いた至適な機能維持培養法が確立されていなかったので、本研究では種々の細胞外マトリックス成分よりゲル薄膜を作製し毒性評価に有用な肝細胞培養系の創出を試みた。
(方法)コラゲナーゼ灌流法で調製したラット初代肝実質細胞を各種細胞外マトリックス成分(1型コラーゲン、4型コラーゲン、マトリゲル)のゲル薄膜上に播種して、経時的に位相差顕微鏡による形態観察、蛍光染色による生死判定、およびアルブミン分泌量測定を行った。また、アセトアミノフェン添加による肝毒性を評価した。
(結果および考察)肝細胞は、1型コラーゲンおよびマトリゲルのゲル薄膜上では4日目以降にそれぞれ非実質細胞の増殖あるいは球状細胞の凝集が進行して肝実質細胞の生存率が低下したが、4型コラーゲンゲル薄膜上では培養9日目までコロニーとして成長し続け肝実質細胞の良好な形態が維持され、アルブミン分泌量は培養9日目において他群に比べ有意に高かった。また、プラスチック製培養皿と比較すると4型コラーゲンゲル薄膜上の肝細胞は10 mM 以下のアセトアミノフェンでは肝細胞障害性も低く抑えられ、薬物特異的な肝障害評価に応用できることが示唆された。