抄録
日本では95年に教育委員会が諸外国の認定制度、特にABTについて検討を始めた。トキシコロジストのモチベイションを高め、試験責任者等のトキシコロジストの質の向上を図り、毒性学を発展させるためにはABTと同等の範囲、レベル、基準を満たすことが必要とされた。認定試験の実施のためにGrand Father制度を導入した。98年から2004年までに7回の認定試験が行われ、2002年からは資格更新手続きが開始され、現在認定トキシコロジストは268名である。また、それまでのCasarett & Doull's Toxicologyに代わり、日本トキシコロジー学会教育委員会編「トキシコロジー」が編集され正式参考図書となった。なお日本トキシコロジー学会認定トキシコロジストの英語名はDiplomate of the Japanese Society of Toxicology (D.J.S.T.)である。2002年3月、厚生労働省の鶴田大臣官房審議官が「申請時に添付する履歴には認定トキシコロジストであることを明記してほしい。可能ならば、安全性評価の責任者は有資格者であることが望ましい」と発言した。これからは、認定トキシコロジストの資格を持つことが試験責任者の資格条件とされ、就職や昇進に有利となると思われる。雇用者にとってもこの制度は採用の客観的評価基準を持つと言うメリットがあろう。社会においても、新薬などの安全性評価において、ABT基準と同等の基準を満たした有資格者が国際的合意に基づく試験法でGLP基準に基づいて行った試験を、同じ有資格者の審査官が評価して世に出すことにより、安全性における国民の理解が得やすくなると思われる。さらに大事なことは、この資格に挑戦することによる、個人の学習意欲の向上と学問的満足感の達成だと思う。その意味で受験資格の門戸は広くしても、試験のレベルは下げてはならないと思われる。