日本トキシコロジー学会学術年会
第32回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: O-28
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一般演題(口頭)
ベンゼンの血液毒性と酸化的ストレス - thioredoxinによるベンゼン毒性の緩和と、p53欠失によるその解除
*平林 容子川崎 靖淀井 淳司李 光勲尹 秉一金子 豊蔵黒川 雄二長尾 拓菅野 純井上 達
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抄録
背景: Benzene(Bz)はヒトでの白血病原性が知られている。マウスにおける白血病誘発は多年の苦心の末成功した。しかし、Bzもその代謝物もAmes試験陰性が知られ、それはこれらの疎水性に基づくとされる。そこで注目される点が、Bzの代謝過程での活性酸素種(ROS)生成であり、Bzやhydroquinone(HQ)、catechol、trans-trans muconic acidなどの代謝物に認められる顕著な染色体破砕性(clastogenesis)もこれによるものと信じられ、Bzのgenotoxicityの根拠と考えられている。ところがBzの白血病は低用量では観察されず、先のBz以外のclastogenではBzと異なり少なくともマウスでの白血病原性は認められない(但し、HQのみラットで自然発生単核白血病の頻度が上昇する)。従って、Bzの白血病のユニークな酸化的ストレス説も不明にとどまり、その白血病原性がgenotoxicityとepigenetic carcinogenicityのいずれによるかさえ明らかとはいえない。そこで行ったthioredoxin(Trx)の過剰発現(Tg)マウスを用いたBz白血病誘発実験は、その機構として酸化的ストレス原性を初めて明らかにする結果となった。
結果: 即ち、野生型(Wt)群では、Bzを300ppm間歇吸入暴露(1日6時間/週5日/26週間)することで、暴露開始後348日までに30%の胸腺リンパ腫を発症し、Trx-Tgではこれが完全に抑制される(第30回学術年会)。この分子背景として、1)Trx-TgではROS産生量が少ない:ROS量を反映するとされる2',7'-dichloro-dihydro-fluorescein diacetateの蛍光強度は、Wtではベンゼンの暴露直後から経時的に上昇するが、Trx-Tgでは全く上昇しない。2)Trx-Tgではp53の機能が亢進する:Trx-TgではWtに比べて定常状態でp21が1.36倍の過剰発現状態にある。個体レベルでの造血幹細胞動態解析を行うと、倍加時間を反映すると考えられるBrdUrd取込速度がWtより遅延し、全体のdormant分画の拡大が観察され、p53の関与する幹細胞動態の抑制が見いだされた。
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© 2005 日本毒性学会
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