抄録
【目的】薬物により誘発される心臓の不整脈に関して,従来考えられてきたIkr/Iksチャネルの直接的なブロックの他に,新たにチャネルタンパク質の細胞膜への移行阻害作用が注目されている.しかし,既存のin vitro安全性薬理試験である活動電位測定試験及びhERG電流測定試験では,薬物の膜移行阻害作用を正確に評価することはできない.そこで,チャネルタンパク質の細胞膜移行阻害作用について評価可能な試験系の確立を検討した.
【方法】hERG遺伝子を導入したHEK293細胞を,hERGタンパクの細胞膜移行を阻害すると考えられている三酸化ヒ素(As2O3)を含む培地で一晩培養した.その後,回収した細胞からタンパク質を抽出し,hERGタンパクの発現量をウェスタンブロット法により検出した.また,hERGタンパクの膜移行阻害によって影響を受けるhERG電流量の変化を,同様に三酸化ヒ素を処理したhERG導入HEK293細胞を用いて,ホールセルクランプ法により測定した.
【結果】ウェスタンブロット法により約135kDの未成熟型hERGタンパク,約160kDの成熟型hERGタンパクの2本のバンドを検出した.細胞に処理した三酸化ヒ素の濃度に応じて,成熟型hERGタンパクの発現量が減少し,未成熟型hERGタンパクの発現量が増加した.すなわち,三酸化ヒ素によりhERGタンパクの膜移行が阻害されたことが示された.また,それに伴うと考えられるhERG電流の減少を確認した.これより,タンパク質発現量の変化と膜電流量の変化を併せて捉えることにより,細胞内におけるhERGタンパクの膜移行阻害作用を正確に評価し得ると考えられた.
また,hERGタンパクの成熟・膜移行において,シャペロンタンパクであるHsp90が重要な役割を果たしているという報告がある.本会では,Hsp90の阻害剤であるGeldanamycinを処理した結果についても,併せて報告する.