抄録
【目的】インスリン抵抗性と自律神経系機能の変化との間には密接な関連性の存在することが推測されている.しかしながら,未だその詳細は明らかにされていない.Zucker fatty rats(ZFR)はインスリン抵抗性を有するモデル動物として知られているが,我々のこれまでの研究ではZFRは対照のZucker lean rats(ZLR)と比較して自律神経系機能に大きな差異は認められていない.そこで,本研究ではインスリン抵抗性を改善させることによって生じる自律神経系機能の変化に着目することにより,両者の関連性を明らかにすることを目的とした.【方法】あらかじめテレメトリー送信器を埋込んだ15-18週齢のZFRおよびZLRにインスリン感受性増強薬T-174(100 ppm混餌)を7日間自由摂食させた.その間,無麻酔・無拘束下において心拍数および活動量を記録するとともに,投与前日と投与1,4,7日目に24時間の連続心電図記録を行い心拍変動パワースペクトル解析により自律神経系機能を評価した.【結果と考察】摂食量にはZFRとZLRの間で有意な差は認められなかった.ZFRではT-174投与により血漿インスリン濃度は劇的に低下し,トリグリセリドも低下する傾向にあった.心拍数はZFRで投与1ないし2日後から上昇し,観察期間を通して高い値で推移した.また,心拍変動解析の結果4日目以降に低周波成分(LF)と高周波成分(HF)は有意に低下した.さらに,これらの指標における明期と暗期の差が減少することによって日内変動が不明瞭になった.ZLRではZFRに認められたような顕著な変化はみられなかった.以上の結果から,ZFRにおいてはインスリン抵抗性が改善することにより副交感神経系活動が低下するために自律神経系のバランスが交感神経系優位になるものと考えられた.