抄録
動物薬として用いられているキノロン系抗菌剤のフルメキンは、マウスにおける肝発がん性が知られている。in vitroでの変異原性は陰性であるが、近年、発がんプロモーション作用に加えて弱いながらもイニシエーション作用を持つことが報告され、コメットアッセイにおける陽性結果も報告されている。フルメキンを投与したマウス肝臓におけるマイクロアレイ解析により酸化的ストレスに関連する遺伝子発現クラスターが同定されていることから、フルメキンの発がんメカニズムに酸化的ストレスが関与する可能性が考えられる。今回、酸化的DNA損傷に起因した突然変異がフルメキンの発がん性に寄与しているかどうかを調べるため、in vivo変異原性アッセイ動物として知られるgpt deltaマウスを用いて、フルメキン投与による肝臓における酸化的DNA損傷レベルと遺伝子突然変異頻度の解析を行った。
【方法】C57BL/6系統のgpt deltaマウスに肝発がん好発系であるC3H/He系統を交配させて作成したB6C3F1系統の8週令雌雄のgpt deltaマウスに、0.4%の濃度でフルメキンを13週間混餌投与した。対照群には基礎飼料のみを同期間与えた。投与期間終了後、肝臓のDNAを抽出し、レポーター遺伝子上の突然変異頻度を解析した。さらに、肝臓の酸化的DNA損傷レベルを8-オキソデオキシグアノシン(8-oxodG)量としてHPLC-ECDで測定した。
【結果】フルメキン投与による肝臓DNA中の8-oxodG量の有意な変化は認められなかった。突然変異解析においても、点突然変異および欠失突然変異ともにフルメキン投与による有意な変異頻度の増加は認められなかった。
【結論】フルメキンの発がん作用に、酸化的DNA損傷による突然変異が関与している可能性は低いと考えられた。