抄録
発がん性物質の短期スクリーニングとして、突然変異や染色体異常を指標とする遺伝毒性試験が実施されているが、これらの試験系は初期の変異を検出する系であり、多段階発がんの過程を包含する試験系ではない。一方、Balb/c 3T3細胞を用いるトランスフォーメーション試験は、薬剤処理後、長期の培養過程を経て生じた形質転換フォーカスの数を指標にし、二段階発がん試験のモデルをin vitroで再現する事が可能である。佐々木らはBalb/c 3T3細胞にv-Ha-ras遺伝子を導入したBhas42細胞を樹立(1988)し、この細胞がプロモーターの検出に極めて有効である事を示した(1990)。その後、大森らはプロモーター活性検出の為のアッセイ系を確立し、多施設による評価試験を実施している(2002)。 また浅田らは、化学物質をBhas42細胞の増殖期に処理する事でイニシエーター活性を、細胞増殖静止期に処理する事でプロモーター活性を検出できる事を報告し、発がん性物質のin vitro短期二段階検出系としての有用性を示した(2003)。[方法] イニシエーション試験では、Bhas42細胞の増殖期に被験物質を処理し、培地交換しながら28日後に固定染色しフォーカスを計数した。プロモーション試験では、細胞を播種後、細胞増殖靜止期に被験物質を含む培地で処理し、14日後に正常培地に交換し、21日目に固定染色してフォーカスを計数した。[結果] これまで得られた既知のイニシエーターとプロモーターを用いた実験では、MNNGや芳香族炭化水素等のイニシエーターは、細胞の増殖期の処理によって検出され、TPAやリトコール酸などのプロモーターでは、細胞の増殖静止期に処理する事で検出された。 以上の結果より、多段階の発がん機構の中で作用機序の異なる、遺伝的傷害により発がんを生じるイニシエーターと、細胞の増殖や細胞間連絡等に関連するプロモーターを、Bhas42細胞を用いその試験プロトコールを変える事で検出する事が可能であり、非変異発がん性物質の検出にも有用である事が示唆された。 (本研究の一部は、日本化学工業協会が推進するLRIにより支援されました)