抄録
【目的】Gap junction(GJ)を介する細胞間コミュニケーション(GJIC)は,化学物質が誘発する細胞障害を隣接する細胞に伝播し毒性を拡大させると考えられている.しかし,この作用は主としてin vitroの実験により裏付けされてきたものであり,in vivoで調べた報告は少ない.そこで,本実験では化学物質の毒性に対するGJICの関わりをin vivoで検討することを目的とし,肝臓におけるGJの構成蛋白であるCx32の遺伝子をノックアウトしたマウス(Cx32KO)と野生型マウス(Wild-type)にAcetaminophen(APAP)を投与し,両系統での肝障害発現の違いを調べた.【材料および方法】20週齢のCx32KOおよびWild-typeにAPAP 100,200および300 mg/kgあるいは溶媒(生理食塩液)を単回腹腔内投与した.投与24時間後,血液および肝臓を採取して血液化学的および病理組織学的検査を行なった.また,溶媒投与群では,肝臓中の薬物代謝酵素(CYP,GST,UDP-GT)およびGSH量についても測定した.【結果および考察】Wild-typeでは,300 mg/kgでのみALTとASTが顕著に上昇した。これに対して,Cx32KOでは,全ての投与量でALT,ASTの上昇が認められ,これらの値は投与量の増加に伴って増加した.また,病理組織学的検査では,これらの変化に相関して肝細胞の壊死および変性が小葉中心性に認められ,特に300mg/kgでの病変の程度はWild-typeに比べてCx32KOの方が強くその領域が広範囲であった.一方,溶媒投与群の薬物代謝酵素活性およびGSH量には,両系統間で差は認められなかった.本結果は, in vitroあるいはdominant negative TGラットで報告されているGJICを介する毒性の拡大とは異なるものであり,in vivoの実験で化学物質による肝障害がGJICによって抑制されていることを示唆した初めての報告である.