抄録
【目的】化学物質の安全性試験において、骨髄検査は被験物質の造血器系への影響を検索する上で極めて重要な検査項目の1つであり、骨髄塗抹標本を用いた形態学的検査や自動計測装置による骨髄有核細胞数の測定が実施されている。我々は、本学会第31回大会において自動計測装置を用いたラットの骨髄有核細胞数の測定方法ついて発表した。今回、同手法を用いて検索したラットの骨髄検査成績のうち無処置対照動物から得られた背景データを対象に系統差、週齢差および性差について検討を加えたので報告する。【方法】今回の解析データは、農薬の28日、90日および1年間反復投与毒性試験に供した雌雄のWistar系あるいはF344ラットの無処置対照動物から得た骨髄検査成績で、検査時の動物の週齢はそれぞれ9、18、57週齢であった。検査方法は、これらの動物から採取した大腿骨の骨髄細胞浮遊液を調製し、自動血液検査装置ADVIA120 (Bayer Corp.)を用いて骨髄有核細胞数の測定を行った。加えて、骨髄塗抹により分類された各細胞種の割合に有核細胞数を乗じ各細胞数を算出した。【結果】動物の系統間で比較した場合には、骨髄有核細胞数は全般にWistarラットの方がF344ラットに比べ高値を示す傾向にあった。週齢の比較では、骨髄有核細胞数は18と57週齢時では差はなかったが、赤芽球系および顆粒球系細胞数は18週齢に比べ57週齢では高値を示した。また、赤芽球系細胞の増加比が大きいため顆粒球系/赤芽球系細胞比(M/E比)が減少した。その他、リンパ球は加齢とともに漸次減少した。一方、性差に関しては全般に雄の方が雌よりも高値を示す傾向にあったが、その差は18週齢時の肥満細胞および形質細胞数において顕著であった。以上の結果より、安全性試験における骨髄検査では動物の系統、週齢および性差を十分考慮した上で評価する必要があることが示唆された。